<薬を使わないうつ病の治療「認知行動療法」とは?>
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精神療法のひとつ認知行動療法に注目
近年、うつ病に有効な抗うつ薬や抗不安薬の新薬が次々と登場していますが、どんなに進化した薬でも多少の副作用があり、また、残念ながらすべての人に効果が発揮されるわけではありません。
効果を発揮したとしてもそれはある意味、対症療法的な効果でしかなく根本的な解決には至っていないのが現状です。そういったことから、現在精神科では薬の服用のみの治療に限界が叫ばれていて、医師などの専門家が患者の心に働きかける精神療法の中のひとつである、認知行動療法が大変注目されるようになりました。
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認知行動療法って何?
「認知」とはものの見方やとらえ方のことで、人それぞれ十人十色です。共通して言えるのは、ストレスが強くなると考えの幅が狭くなり、物事を否定的にとらえたり悲観的になったり、自分を責めたりする傾向が強くなるということで、「認知」に歪みやかたよりが生じやすくなるということです。
私たちがある出来事に遭遇した時の気持ちや行動は、この「認知」によって影響されます。「認知」が歪んでいたり偏ったりしていると、気持ちは重くなり行動や意欲が低下します。
認知行動療法は、この「認知」にアプローチして自分の気持ちをコントロールし、心をしなやかにすることを目指す方法です。
ここで、よくある「認知」の偏りの例を挙げます。
- 感情的きめつけ:根拠もないのにネガティブな結論を引き出す
- 選択的注目:良いこともたくさん起こっているのに、小さなネガティブなことに注目してしまう
- 過度の一般化:1つうまくいかないと、自分は何も出来ないと考える
- 拡大解釈と過小評価:失敗したことなど都合の悪いことを大きく考え、成功したことを評価しようとしない
- 自己非難 :本来自分に関係のない出来事まで自分のせいと考えたり、原因を必要以上に自分に関連づけたりして自分を責める
- 白黒思考・完璧主義:白黒つけないと気が済まない、非効率なまで完璧を求める
- 自分で実現してしまう予言:否定的な予測をして行動を制限し、その結果失敗してしまう
そして、否定的なその予測をさらに信じ込むという悪循環を生む
(例:誰も声をかけてくれないだろうと引っ込み思案になり、ますます声をかけてもらえなくなる)
上記のような「認知」に影響された気持ちや行動は、現実的でなくバランスが悪くなり、自らをさらに苦しい状況に追い込むという悪循環を生み出しやすくなります。
認知行動療法は、プラス思考させるのではなく現実に目を向けて柔軟に考え、問題に適切に対処できるよう手助けする方法でもあります。
薬物療法のように対症療法ではなく、自分の考え方のクセや問題点に気づき、問題解決のコツや心身をリラックスさせる方法を身につけることは再発予防にも有効だと言えます。
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認知行動療法は具体的にどんなことをするの?
ある状況に遭遇したときに自動的に浮かんでくる考えやイメージのことを「自動思考」と言い、認知行動療法ではこの「自動思考」を明らかにし、それをどのように修正していくか探ってきます。
次の(1)~(5)のような流れで自分を見つめ直していきます。
- ストレスの原因となる問題の整理
- その問題がどのような状況で起き、その結果どのような感情を引き起こしているのか振り返る
- 「自動思考」が感情や行動にどのように影響しているのか振り返る
- 「自動思考」の特徴的なクセに気づく
- 「自動思考」の内容と現実のズレに注目して、自由な視点で現実に沿った柔軟なものの見方に変える練習をする
治療の実施については面談だけでなく、活動を記録することや記入型のホームワークなども取り入れて行います。医療機関、医師にもよりますが30~60分間の面談を16~20回行い、面談と面談の間には、修正した柔軟な考え方を毎日の生活の中でも生かして実際に使ってみるという宿題が出されます。
さらに、考え方すなわち「自動思考」が変わってきたら、問題を解決する方法や人間関係を改善する方法にも取り組みます。
認知行動療法の本などを参考にして自分ひとりで取り組むことも可能ではありますが、客観的に自分を見つめることはなかなか難しいので、初めは医師などの専門家と一緒に取り組むことをおすすめします。
[st-midasibox title=”認知行動療法の第一人者 長村 哲周氏” fontawesome=”fa-check-circle faa-ring animated” bordercolor=”#FFC107″ color=”” bgcolor=”#FFFDE7″ borderwidth=”” borderradius=”5″ titleweight=”bold”]
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認知行動療法のメリットとデメリット
認知行動療法で学んだスキルは、治療を終えた後も心の力を持続させてくれるので、しっかりとした訓練を受けた治療者のもとで焦らずじっくり取り組むことができれば、抗うつ薬と同様かそれ以上の効果があることが医学研究によって証明されています。
また、薬物療法のように副作用がありませんし薬との併用も有効です。さらに、「認知」の修正という根本の改善が期待できる治療法なので、再発予防に有効であり、学んだスキルをその後の生活でも生かすことができます。
他にも、認知行動療法はうつ病だけでなく、パニック障害(不安障害)、強迫性障害、摂食障害、その他の様々な恐怖症にも効果が期待されます。これらのことから、認知行動療法は多くの心の病気に有効な治療方法だと言うことができます。
一方、即効性がありませんので効果が発揮されるまで時間を要します。その人の症状や状況にもよりますが、3か月~1年程度はかかると考えておくとよいでしょう。
また、様々な課題に取り組まなくてはならないので、ある程度の意志と労力が必要です。
考え方を変えた方がいいと言われてすぐに変えることができる人は多くはないでしょう。私たちの考え方は、子供の頃から長い年月をかけて形成されたものですから、一朝一夕にどうにかなるものではありません。それを考慮すれば、効果が発揮されるまで時間がかかるのは当然のことです。
5.まとめ
現在、研修を受けた医師や看護師が認知行動療法を行った場合に限り健康保険が適用されますが、医療機関、医師によっては取り入れていない場合もありますので、事前に問い合わせなどをして確認しておきましょう。
認知行動療法は、自分ではなかなか気づくことのできない考えかたのクセに気づき、それを無理なく納得しながら修正していくことで自分らしく生きることができるよう手助けしてくる優れた治療法です。
うつ病かもしれないと自覚して病院やクリニックで治療を受けたいけど薬に頼りたくない方、あるいは長期間薬を服用しているけど一向に症状が良くならないとお悩みの方などは、認知行動療法について信頼できる医師などの専門家に相談し、検討されるとよいでしょう。